邦ロック最前線情報局

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本物を追い求める謎多き映像作家・留置太輔(とめさん)にインタビュー

良い音楽には、良いMV作品が付き物。
個人的に僕はそう思っていて、かつて「カッコイイMV作品でよく見るMV監督」というブログも書いてことがあります。

その中でも取り上げさせてもらった1人である留置太輔、通称:とめさんを今回インタビューさせていただきました。
あるゆえ、Organic Call、鉄風東京、クジラ夜の街、みるきーうぇい、錯乱前戦、東京初期衝動などなど、新進気鋭のバンドやSSW、アイドルのMVやライブ映像には常にその名があり、衝動性をありのままに切り取ったような映像の臨場感に毎回血が騒ぎます。僕が新しいアーティストを開拓している時でも、監督がとめさんというだけで「おっ」となります。
インディーズのみならずTHIS IS JAPANや神聖かまってちゃんLONGMANコレサワ井上苑子などのメジャーバンドの作品でも監督やライブ撮影に多く関わり、今後も間違いなく存在感を増していくであろう28歳です。同い年でした。

ただその素性の多くは謎に包まれています。
映像の雰囲気や、「喫煙女子」という動画シリーズを制作するなどタバコとアフロ田中をこよなく愛している印象もあってか、「漢・カメラ一匹」みたいなイメージがありますよね。

ということで今回は彼の過去やポリシー、所属する映像制作チームTOKYO COLORS TECへの思いなども聞いてみました。
普通に話が面白くて、途中から僕は何もしゃべってません。
それではどうぞ。

生き様、練習、師匠

遊津場(以下、津):あまり自分のことは話したがらない印象ですが、今回インタビュー受けてみようかな、と思ったきっかけは何だったんでしょうか。
留置太輔(以下、留):僕自身があんまり自分のことを詳しく喋らないので、掘り下げてもらったらいいきっかけになるかなと。僕自身どんなことを自分が言うか分からないし、それをまとめてもらったやつを見たいなと思いました。
:自分を客観的に見るとどうなるかに興味があったと。ちなみに僕の勝手なイメージで考えると「風来坊」的なイメージですね。いろんなところで撮りまくっている、漢字の漢という字を使っての”漢(おとこ)”の方かなと。
:ハハハ。それは嬉しいですね。
:だからちょっと怖い人みたいなイメージもあるかもしれないですね。
:あぁそれはよく言われます。
:だから今撮影依頼も多いと思うんですけど、もし断られたりしたら「楽曲のセンスがないのかな…」と不安になるアーティストもいそうです。
:撮影断ったことないんですよ。
  ただ断ったことはないけど「やりたくないな」と思ったことは何度もあります。
それでも自分本意かもしれないけど、やりたいことだけやってても成長しないと思うから。
まぁでもさすがに最近は1万円でとかは少ないけど。
:撮ってきたジャンルもバンドだけじゃなく、SSWやアイドルもありますし、映像でもMVやライブ撮影だけじゃなく今度は音楽ドラマの監督もされます。
:めちゃくちゃ幅広くはやってる。食わず嫌いはしたくないですし、やったらどうなるんだろう?やらないことにはできるかどうかも分からないから何でもやろうと考えてます。
:それは昔からそういう性格だったんですか?
:そうですね…確かに。やらないってことはないかもしれない。
その性格もあってか実は5回くらい転職してるんですよ。しかも1回は飲食系。
ただ毎回徹夜してるし、生活リズムはあんまり変わんない。
:それを経ても今は映像をやっている。それは父親からの影響と聞きました。
進路を考えた時、何か専門学校だったりは通ったりしたんですか?
:いや、独学ですね。だから今も自分のことを全くプロだと思ってなくて。
ライブの撮影の時にプロのカメラマンに来てもらうこともあるんですけど、すごい差があるんですよ。
撮影は好きだし、自分にしか撮れないものも少なからずはあるとは思うけど、プロにはなれないしディレクターカメラの域からは出てないとまざまざと見せつけられる。
いつも呼ぶカメラマンに水島さんという年上のプロカメラマンがいて、その人にいつも帰りの車の中で「今日の配信どうでした?」めちゃくちゃ聞くんですけど「いいね」って一回もならない。
:厳しい…
:厳しいけど、他に聞ける人もいないし教えてくれる人もいなかったので、水島さんにはめちゃくちゃ聞くようにしてます。

:最初に映像の世界にはどこから入りましたか?
:最初は地元のTV局の報道部、カメラマンの平均年齢60歳くらいの中で働いて、ロケとかで使う担ぐカメラの使い方を教わりました。
:それは高校出てすぐですか?
:少しだけ大学通ったんですけど、家庭の事情とかもあって「お前はもう大丈夫だろう」ということで野に放たれる形で中退して働きました。
親父も映像関係で働いていて、それがカッコよくて。で、野に放たれて完全0状態になった時にそんな親父を「倒してぇな」と思って。映像関係の仕事就くとは思ってなかったけど、カッコ良かった親父に「勝ちたい」「認められたい」というのがあって始めたのはあったかもしれない。

だからすんごい練習した。
カメラの練習ってなんだって思うかもしれないけど、今にも活きていることがあって。
道路に出て三脚を立てて、自分が決めた車に対してずっとピントを合わして追う練習とか、三脚を素早く折りたたむ・立てる練習。
でかいカメラを肩に乗せて中腰で1時間ブレない練習やったり、ペットボトルを三ヶ所に置いて遠い場所・近い場所とカメラを素早く動かしてもピタッとピントを合わせる練習とか。
でも楽しくてずっとやってたな。
:それが楽しめるというのは強いこだわりみたいなものも感じます。
:こだわりというよりは、自分に必要だからずっとやってた。できないなら「どうやってできるようになろう」って考えるし、目に見えて上手くなっていたから楽しかった。
この練習はライブ撮影にすごく活きてます。
:ライブハウスの予測不能の動きもしっかり対応できるのは、そういう練習があったんですね。

:その後は大阪のTV制作会社でディレクターしたんですけど、この期間が今までの人生で一番地獄のような日々だった。余裕もなく、自信もなく、ずっと忙しい。
でも自分が作ったものが流れると快感でしかなかったですね。
ただ1年半くらい働いて辞めて、さっき言った飲食の仕事を西表島でやってたんですよ。
:その飲食の仕事はどうだったんですか?
:すげぇ和やかで楽しくて。本当にこれを一生やるかもって何回も思った。
でも…だからこそ何にも人生に対して焦ることが無さすぎて、怖くなってしまった。「俺の人生、ずっとこれ?」みたいな。
それで東京のイベント制作会社の映像部門に就職しました。で、この時に自分で撮って編集してというのをやり始めた時に「これだ!」と思って、その後クラウディというMVを制作してる会社に2018年に就職しました。
そこの代表の森岡千織さんにはすごくお世話になって、MVを作って生きるということを教えてもらった気がする。
直接的に教えてもらうということはないんだけど、監督というものはどういうものか、助監督の立場から教えてもらった。MVに関しての師匠です。

ただ結構アシスタント業でいっぱいいっぱいで「このままのペースだと独り立ちするのは遅いな」と感じ始めて、会社に「会社の業務に疎かにしないから、自分でも撮り始めていいですか」と相談してから並行して個人で撮り始めた。
そこでMVの撮影の師匠が森岡なら、ライブ撮影にも師匠というか憧れの人がいて、それが神聖かまってちゃんなどを撮られている竹内(道宏)さんという方です。
竹内さん普段は当時連絡先とか公開してなかったんですけど、たまたま公開してたタイミングを見つけて、もう長文のメールを送りつけ会ってもらい、そこから1年くらいちょこちょこ撮影に呼んでもらえるようにもなりましたね。
そこでライブ撮影とは何かを学んだ。竹内さんの映像は「本当にこのバンドを見せたいんだな」という気持ちしかない。
:本当に演者側を立てている。
:今の若いカメラマンの中には「自分はすごいぞ」みたいなマウントを感じる時があるけど、自分はそうはなりたくないし、所詮裏方だし、できるだけ表に出たくないし。竹内さんからはそういうスタンスがすごくカッコ良くて。
カメラって何のためにできたんだろうと考えると、やっぱり記録を残すためにできたものだから。
それで僕もカメラ持ってる理由って残したいからだから。竹内さんはそれを10年以上体現していてマジカッコいいと思う。
:演者見せたいというのは、とめさんからもしっかり出てます。
:そこが出なかったら撮る意味ない。
今でもライブ撮りたいバンドいたら「無料でもいいから撮らせてくれないか」と連絡することがある。そういう映像ってのは残すべきものだから。そっち側でありたい。
:これはあらゆる裏方、例えばライターにも言えることです。
:一つコンプレックスもあって、「本物じゃないな」と自分を思うところなんですよ。
MVを撮るの始めた時も「500円払うからMV撮らせてください」というところから始めていて。それが反響あって10組くらい撮って。そこからお金もらってMV撮るようになって、金額も分かりやすく上がっています。
大きい契約も増えて、生きれてるのがありがたいと思いつつ、でもまだなんか、学んだわけでも教えてもらってもわけでもないから、圧倒的本物の森岡さんや竹内さんと比べると”自分の色”ができてないなと思っている。
MVの時に自分の演出でこうしたいとか全くなくて、向こうが表現したいものを見せるのがMVじゃないですか。
でもそれをしつつも自分の色と言えるものが出てないのが、まだ本物じゃないと感じている。


所属する映像制作チームTOKYO COLORS TECについて

:同じ映像制作チームのTOKYO COLORS TECに所属している三浦さんという人がいるんですけど、この人すごいなというのは作品に込める愛がすごくて。
三浦さんは「この作品はこうこうこう思って作りました」というのを書いていて、まるで子供を産むように作品を作っていて、三浦さんには勝てないなと思ってしまう。
:三浦さんも同い年ですね。
  代表の斉藤さんも同い年です。チーム設立のきっかけでもあったと思うんですが斉藤さんとの出会いはどうだったんでしょう?
:斉藤の第一印象は最悪で。今、機材や情報量の進化で誰でもそれっぽく撮れるんだけど、その薄っぺらさを感じたというか、実際にライブ映像とか撮ってもらっても「うーん」と思ってた。元々WEBディレクターだったしフリーになりたてでもあったけど。
でもそう思いつつも何故か3回くらいアシスタントで呼んでて。でドローンが操作できるって聞いてたから、SSWのハシダヒロヤのMVにドローン使いたいなと思ったから来てもらったら、その撮影がすごく良くて打ち解けたんだよね。
それからドローン使いたい時は呼んでたし、それで僕が2019年11月にフリーになった時に「映像制作チームやりたい」と相談した。
ただ僕が代表になると独裁国家みたいになりそうだし、1ディレクターとしてやっていきたいし、斉藤に代表をお願いしたら「やろっか」ってなって、トキョカラができました。
:今に至るまでしっかり続いているんで、その采配で良かったのかもしれません。
:口コミで増えているから良いなとは思う。
:仕事の流れは各クリエイターに直接だったり、トキョカラに来たりするんですか。
:いろいろある。アイドル系やライブ配信はトキョカラから来たりが多い。でもまぁいろんなパターンがある。自分に来たものをトキョカラにってのもあるし。

:さて、その中で昨年を迎え、とても配信の多い1年になったと思いますが、どうでした?
:配信めっちゃ増えました。
それまでTOKYO COLORS TECってバラバラに各々やってた形だったけど、配信が増えたことで集まる機会が結構増えて、チームとしても個人としても成長できた。
監督っていう仕事が配信の規模が大きくなる分大変になっていて、やりたいこともできなくなったりしたけど、そこもチームとしてやってきて、やっとチームって言えるようになったかな。
:その中で去年特に印象に残っている仕事はありますか?
:一番配信に可能性を感じたのは、7月7日のTHIS IS JAPANの配信ライブですね。
電気グループなども担当している和田さんという方がVJで入って、撮影チームはウチで配信したんだけど、それがめちゃくちゃ良くて!好きなバンドを一番って思うくらいカッコ良くできて「配信ってすげぇ可能性ある!」って感じた。
ウチは全員プロのカメラマンじゃなくディレクターカメラなんだけど、それが上手くTHIS IS JAPANと和田さんでハマったのかもしれない。
生のMVみたいなことができて「これが配信か」「もっと配信やりたい!」と思った。

その他、出会いが多かった1年かもしれない。今ずっと撮ってるあるゆえや東京初期衝動も去年だし。
あるゆえに出会えたのは嬉しかった。ずっと気になっていたけど何かのライブの対バンで出ててカッコいいと思って、勝手に撮って、勝手に送りつけて、お金とか要らないんでこれからも撮っていいですかってお願いしましたね。
:それで今、最新MV『騒音楽』まで撮られてますからね。すごい攻撃力があって好きな曲、MVです。
2人:(あるゆえに)会いたいな…

これから

:これから先の夢や展望、出会いたい人はいますか?
:出会いたいで言うと、これから僕がどれだけ大きくなろうと、身内は変わらないかな。
今フリーの助監督みたいな形で佐藤くんという人とやってるんですけど、その子との仕事がすっごいやりやすくて。どんだけ売れても佐藤くんと一緒にやりたいと思うし、斉藤もそうだし。身内ではいない。あ、リーガルリリー撮りたい。
:関わったバンドも多いBAYCAMPとかでチャンスあるかもしれないじゃないですか。
その他新しい才能も見つけていきたい気持ちはありますか。
:新しいとか若いとか何でもいいんだけど、 「本物を見たい」はずっと思ってる。
例えば1曲も知らないアーティストのライブに見て「すごい」って思えるのが本物だなと思ってて。
ライブを見て泣きそうになったの何回かあって、永原真夏さんのライブをスタッフで撮りに行った時、すごい震えた。「この人ヤバイ。マジもんだ」っていう。あれは滅多に感じることのない感情。本物を浴びた気がしてすごく嬉しかった。あんまりいないからね。
:特に今は誰でも発信できるので、その雑多な中で本物を探すのは難しくなってます。
:でもたしかに本物は本物でいるから、嬉しくなるよね。
:だからこそ本物を残してくれる存在は本当に貴重な存在だなって、最近特に思いますね。



留:意外とこんな語れるもんなんですね。
津:過去現在未来、しっかり繋がったんじゃないかと思います。ありがとうございました!