邦ロック最前線情報局

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とてもLOVE&PEACEなtetoのNEWアルバム『手』

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ちなみに本人達は「なんかヤベー、ってだけの感想のほうが嬉しい」って過去のインタビューで言ってたので、なるべく簡潔にします(笑)
ネタバレ感もあるから、それが気になる人はご注意を。



tetoのイメージって何ですか?

時代に逆流する硬派で無骨なバンド
とにかくライブが激しいバンド
衝動的に歌詞を捲し立てるバンド

YOUTUBEとか見聞だけのイメージでは、このイメージが強いかなと思います。SNSとかも頻繁にしてないしね。


ぶっちゃけこのイメージだと、10代の邦ロック好きには新鮮に映ると思うんだけど、その一世代上の僕と同年代あたりの人から見ると、どうしてもThe Mirrazと被っちゃうんですよ。対バンにも誘ってたから、teto自身も影響少しあるんだろうなと思いますし。

特に僕はミイラズ大好きだし、「それなら今もミイラズ売れていいやん」ってtetoが活躍するたびに思ってたんですね。



しかし、このアルバムでそのイメージが変わりました。
その一番の要因が、メンバーのピュアで真っ直ぐな人間性が、パッケージなしでぶつかってくるところなんです。
こんなこと言うと、The Mirrazが性格悪いみたいですが(笑)。
それ以上に本人達が「奇を衒うのはあまり好きじゃない」と一貫して言い続けてるとおり、本当に作り手の純度が過不足なく詰め込まれてるという感じ。

そして最終的にはすごく心が暖かくなるアルバムでした。
こんなに心がポッカポカになるアルバムは初めてかもしれない。でもあのライブの激しさ。このギャップがシーン席巻の理由でしょうね。

(結構インタビューとか見てたら、あんなゆるい感じなんですね。なんかそういうとこもプラス)



これがtetoだ、という前半


前半は2分前後のショートロックを矢継ぎ早に繰り出す。
「ネットとかの情報や権力ある人に振り回されず、本質を見ろよ。常識を疑えよ」と、ロックバンドらしい噛み付き方をしてるような曲達の印象。
その中に『高層ビルと人工衛星』がいることで広大な世界に対する無力さをより感じ、聴いていて自分の心と対話している気分になれる。


ここまではやっぱり今までのイメージ通りのいい意味でガサツなスピード感が印象に残る。
歌詞や演奏の上手さはTheMirrazより安定しつつも、パノラマパナマタウンのようなインテリでヒップホップ調ではない"バンドサウンドにだけ合う早口"を使いこなしていることに十分驚ける。

そしてなんか楽しそう。
あーもうじゃあ、このままの勢いでアルバム終わるのかなーって思った。



しかし8曲目の『散々愛燦々』から、なんとなく空気が変わっていく。


後半の「落ち着き」の正体


今回のtetoのアルバム、感想をザッと見ると、「なんか思ったより落ち着いている」みたいな意見もあった。

たしかにサウンド的には少し落ち着き、メッセージングが中心になってきている。
『拝啓』や『Pain Pain Pain』は激しさもあるけど、この2曲だって前半のショートロックに比べると漠然としたものが消え、確実に後半の曲はどれも誰かの顔を思い浮かべながら、書いている曲になっている。

その結果、僕にはサウンドは丁寧になっても、小池さんの感情はより乗っているような気がした。だから僕にとっては、後半のほうが、心の揺さぶりや拳を上げたくなる気持ちが強くなった。

そしてその伝わる感情が、本当に心よりの感謝であり前向きで、応援したくなる愛しいものだった。

さっき、The Mirrazより安定してると言ったけど、ロックンロールは不安定や刺があるからこそ丁度よくなるものもあるから、前半聴く限り、本当に僅かな差で思い出補正もあるかもだけど、ロックバンドとしてTheMirrazのほうが上だな、と思ったんだよね。

でもそもそもそういうバンドじゃなかった。このバンドは本当にピュアで、そして本当にこのアルバムは愛に溢れている。

どれがどの曲かはあえて伏せるし、各々の取り方によっても変わるだろうけど、

古参ファン、新規ファン、周りのサポートしてくれる方々、両親、家族、ペット、別れた恋人、好きな人……

このあたりに対しての愛や感謝、これからもよろしく、忘れないよ、いつまでも味方だよ、という感情が、「愛してる」や「立ち上がる」といった分かりやすいワード使わず、ビシバシ伝わるのだ。
というかそういう言葉をそのまま使う以上に伝わる作詞力。これの右に出るものはそうそういない。

やっぱりそれは小池さんを中心とした、teto本人の嘘偽りのない本当の本音だから。
だからキャッチーでもないし、もちろんありきたりでもない。かといって文学的でもない。
でも本当に小池さんがノートに書いているときの、シャーペンを握っているその「手」の血の巡りのような熱が直接届いているのだ。

曲を聴くと、その「手」から売れないときの苦労(そこまで若くないらしいし)や、これはちょっとtetoっぽくないからこうしてみるか、というtetoだからこその聴き手に対しての思いも伝わる。そんな今まで戦ってきた「手」から書かれた歌詞はそりゃ胸熱にもなる。でもこれは、やりたくてもなかなかできない。

ここまで言って、PCとかで作ってたらごめんなさい。



でもその「teto落ち着いた?」の違和感の正体は、そのJ-POPでも出せないような、純粋な愛の歌が続いているからだと、僕は思った。

『拝啓』の「浅くてもいいから息をし続けてくれないか」なんて、要するに「死なないで」ってことなんだろうけど、本当に辛い人にそのまま「死なないで」なんて言うと頑張っちゃって余計辛い。
でも『拝啓』のこの歌詞なら、そんな瀬戸際の人にも「今のボロボロの僕でも肯定してくれてるんだ」と届く、よりよい言葉だと思うんだよね。それはやっぱり経験値と真の優しさがないとかけられない言葉だと思う。




tetoにとって黄金比のアルバムだった

ただ後半のメッセージングが多過ぎたら、若手にしては少し重すぎるアルバムになってただろう。
やっぱ『dystopia』の泥臭さだって、tetoのその時の全てには変わりないし。

だからこそインタビューでの「ショートチューンの曲を3曲入れたら純度が高くなった」という発言の通り、前半と後半で本当に良い対比が生まれているように感じる。

前半でteto自身もやってて楽しい曲、後半でプロミュージシャンのtetoとして歌わなきゃいけない曲。
tetoにとっての違うやりがい2つが見事な黄金比になっている15曲のフルアルバムだった。



これでまとめとするが、このフルアルバムをもって、tetoにとって次の章が始まったと思う。
その都度その都度、その時のピュアな感情を大事にするtetoだと思ったから、いわゆる売れたバンドになった彼らの次の手は分からない。
やっぱりこういうのが大事と思って売れ線の曲を出すかもしれないし、いろんな音に手を出して挑戦的な作品もいっぱい出すかもしれない。

でもその根底には常にファンとサポートしてくれる方々への深い愛があると思うし、何より画面外の彼らはいつでも間違いなく妥協しないライブをしてくれるだろう。
今はこちらもただひたすらに、この音源とライブからもらえる愛を胸に、明日を生きていきたいと思った。




それでは、この辺で

溶けた銃口

溶けた銃口

  • teto
  • ロック
  • ¥200